イオンレイクタウン-2

「ポスト消費社会のゆくえ」(辻井喬と上野千鶴子の対談)*1を先週、タイトル買い(表紙だけ見て買った)して読んだのだけど、何なのですか、これは。

ひどいですよ、ただの爺と婆の回想録ですよ。最後の章で、辻井喬は「百貨店の時代はもう終わった」と言い、上野千鶴子「レギュラシオン理論」という用語だけを挙げて、それで終わってるだけの本でした。「ポスト」も「ゆくえ」も全然関係なく、その2語だけを見て買った僕は、というか、そういう安易にタイトル買いするような間抜けな客を狙ったのか。

ヽ(`Д´)ノ くそー。

でも、最近の言論や批評はそんなのばかりかも知れない*2。いわゆる「future pull」(未来からの発想*3)の視野を欠いたまま、「present push」(現在からの発想)に終始しているだけの論客が多いです。

ところで、建築評論家の五十嵐太郎のページ(10月6日)によると、「近現代建築史」(五十嵐太郎著?編?、市ケ谷出版社)*4という本が出版されるそうです。これは早目に予約しよう、そしてあえて批判的にじっくり読み込んでみようと思ってます。なぜなら最近(というか半年前くらいから)、いわゆる建築学、都市計画学、社会学のそれぞれが、同じ「歴史」(都市史)を共有してないように思えるからです。

もちろん、同じである必然性は別にないのだけど、それぞれの「歴史」認識の違いがじつはそれぞれのジャンルを隔つ厚い壁となっている、ジャンル間の横断や結合を阻害しているのではないかと思えるような言説を目にする機会が増えたような気がしてなりません。これはあまり好ましいことではないと思います。それは「全体性の消失」(宮台真司)ポストモダンの「小さな物語」がどうのこうのという話かも知れないけど、何かが「やばい」のではないか、と僕のアンテナがどうしてもピピッと反応してしまいます。

それは誤作動(たまにあるw)かも知れませんが、そんな意味で、とりあえず、「近現代建築史」をあえて批判的に読んでみようと思ってます。本音では楽しみなのですけどね。

さて、書かねばならぬことはたくさんあるけど、適当に書きながら考えます。

イオン、閉鎖店舗60程度に 従来計画の5割増
朝日新聞、2008年10月7日)

小売り大手イオンは6日、主力の総合スーパーの08〜09年度の閉鎖店舗数を、従来の計画より5割増しの60店規模に拡大する方針を固めた。(中略)売り上げの回復が見込めない東北や西日本の「ジャスコ」「サティ」が対象となる見込みだ。

(中略)イオンは、総合スーパーや郊外型ショッピングセンター(SC)の全国展開を原動力に成長してきたが、今春には拡大路線を見直し、7月には総合スーパー40店の閉鎖計画を公表。

(中略)イオン幹部は「これまでの出店ペースは速すぎた」と見込み違いを認めた。不振が長引けば、追加の閉店や食品のみを扱うスーパーへの転換が必要となる可能性もある。

閉鎖する店はほぼ決まっているが、公表は地元との交渉が済んだ順に進める。売り場面積が5千〜6千平方メートルの中規模店で、老朽化が進み、顧客層に合う品ぞろえが不十分な店などが対象になる。

先週の10月13日「イオンレイクタウン」では、駅前に立地しているショッピングモール(「イオンレイクタウン」、「ラゾーナ川崎プラザ」等)を、都市の新しい動きとして書きましたが、ここから更に抽象(ズームアウト)してみると、先週、書いたこととは異なる、別の視点が現れます。

僕は、僕の本家のbabyismのブログから(特にIntegral Project-3がそうなのですが)、都市での交通手段を「鉄道」と「自動車」に分けてずっと考えていたのですが、その両者を包めて、より大まか(マクロ)に国土全体を見渡してみると、先週の10月13日「イオンレイクタウン」で「不思議な(都市の)現象です」と書いたことの答えを知る手がかりを見ることができます。

と言っても、僕が自力で計算したわけではなくて、この図です(下図)。

「都市圏人口当たりの小売売場面積」と「小売商業坪効率」の相関図です。

とりあえず、babyismのGuide to Shoppingで書いた(僕が計算した)「東京0.9平方メートル」と同じ値でほっとした、という話はどうでもよくて、この図から分かることは、グラフが大まかに右下がりになっている、つまり、「都市圏人口当たりの小売売場面積」の値が大きいほど「小売商業坪効率」が低下するということです。

この図が添付されていた報告書*5では、この図から、地方の都市圏では「商業床面積の過剰が起きている」と結論付けています。小売売場面積が増えれば増えるほど、収益(商業効率)が下がっている、つまり、過当競争が起きているからです。

これが都市の大まか(マクロ)な視点です。要するに、「過剰」であるということです。これは、イオンが地方の「ジャスコ」を大量閉店(60店規模)する理由の説明にもなるでしょう。

では、ここで問題。次にイオンはどこに出店する(出店しようとする)でしょうか、これを(興味がある方は)少し考えてみてください。まあ、答えは簡単ですね、それは「商業床面積の過剰」が起きていない場所、すなわち、「東京」をはじめとする大都市圏です。要するに、それが「イオンレイクタウン」なのです。

これが「不思議な(都市の)現象」の背景だと思います。ここから「東京」(東京圏)の未来を予測することは可能です。でも、最近のあんなニュースやこんなニュースのことを考えると、必ずしも市場主義的な未来へはもう進まないのかも知れません。

まあ、景気対策として、国民の借金を更に増やして、公共事業をやるなら、いずれその借金を負担させられる今の子供たちのためのインフラや施設を優先的に整備すべきだと思います。それは、日本の国家としてのモラルを守るための、唯一かつ最低限の配慮ではないかなと僕は思います。柄にもないけど。*6

以上、「イオンレイクタウン」についてはまた書きます。「マクロ」ときたら、次は「ミクロ」かな(笑)。

*1:辻井喬」は、セゾングループの実質的オーナー、堤清二ペンネーム。

*2:9月25日「蘇生」参照。

*3:Prairie Houseに書いたハワード著「明日の田園都市」の表紙裏のローウェルの詩、参照。

*4:「現代建築に関する16章」(五十嵐太郎著)は良い本です。World of Tomorrow参照。

*5:「地球温暖化対策とまちづくりに関する検討会」報告書(環境省、2007年)より。

*6:公共事業の提案で、僕の頭程度で考え付くようなことといえば、例えば、babyismのIntegral Project-3で提案した「トランジットシティ」とかその辺か。他には、表記-9で書いたような、日本の「林業」の再生か。これは、中・長期的な視野に立った、地方の都市・産業の基盤(もしくは「社会的共通資本」)の整備のあり方を考える良い機会なのかも知れません。